無登録収納代行業者の撤退後でも利用可能な入出金方法は?
前回(前編)の記事では、25年6月の資金決済法の改正で無登録の収納代行業者を介した国内銀行振込⇔海外の入出金ルートが今後利用できなくなる可能性が高くなるため、海外FX(の入出金)も大きな影響を受けるのではないか、という点について解説しました。
金融庁も、改正資金決済法の施行によりクロスボーダー収納代行に資金移動業規制が適用され得ること、対象範囲の具体化は今後の内閣府令で示すことを案内しています。
参考:https://www.fsa.go.jp/receipt/shunodaiko.html
ではそのような状況において、仮に無登録の収納代行業者が撤退した場合、海外FXの入出金の手段としてはどのようなものが利用できるのか?
今回はそんな入出金の代替手段について見ていきたいと思います。
以下では既に多くの海外FX業者の入出金手段とし採用されているものの中から代表的なものについて取り上げ、その「特徴」「問題点(リスク)」「総評&今後の見通し」についてまとめました。
代替手段①(bitwallet・SticPayなどの電子決済サービス)
特徴
・国内銀行振込と連携して使われるケースが多い
・入出金が比較的早く、手数料も低め
・日本人利用者が多く、操作も簡単
問題点・リスク
・実態として「国内で資金を受け取り、海外へ資金を移動させる」構造になっている場合、資金移動業(為替取引)の論点が生じ得る
・クロスボーダー収納代行への規制は、今後「どのビジネスが対象/適用除外か」について具体化される可能性があり、個別スキームによってリスクが変わる
・サービス自体が直ちに違法になるというより、入出金経路(国内銀行振込の関与のしかた)次第で規制・銀行審査の影響を受けやすい
参考:金融庁「クロスボーダー収納代行に関する相談窓口」
https://www.fsa.go.jp/receipt/shunodaiko.html
【総評&今後の見通し】
bitwallet などの電子決済サービスは、顧客資金の管理やKYC(本人確認)・利用規約・マネーロンダリング対策が、無登録の収納代行業者と比べると整備されていると見られます。
そのため、資金決済法の施行と同時に、これらの電子決済サービスが一律に直ちに利用不能になる可能性は高くありません。
ただし、現状のように国内銀行振込を前提にした入出金経路(実質的に国内受取+海外送金に近い構造)を維持する限り、スキーム次第では資金移動業規制の論点が生じ、将来的に利用が制限されるリスクは高まる可能性があります。
さらに、X(旧Twitter)などでは、電子決済サービス経由の出金後に銀行口座が一時的に利用制限・確認対象になったという報告も見られます。これは違法性の判断というより、銀行側がマネーロンダリング対策や自主規制の観点からリスク取引として確認を行うケースがある、という実務面のリスクとして理解しておくのがよいでしょう。
結論として、電子決済サービスを介した海外FXの入出金は、法規制の観点と、銀行側の審査・自主規制の観点の双方から、今後リスクが高まっていく可能性があると言えます。
代替手段②国際銀行送金(SWIFT送金)
特徴
・法的には最もクリーンで正統な手段
・資金移動業の問題が発生しにくい
・海外FX業者側も対応しやすい
問題点・リスク
・手数料が高い
・着金まで数日かかる
・銀行側のAML審査が年々厳格化
・金額や頻度によっては照会・保留が発生
【総評&今後の見通し】
国際銀行送金(SWIFT送金)は、クロスボーダー収納代行規制の影響を受けにくく、今後も利用できる可能性が高い、比較的低リスクな入出金方法です。
一方で、手数料は「送金手数料」だけでなく、取扱手数料や支払銀行手数料、さらに中継銀行・受取銀行側の手数料が差し引かれる場合もあり、総コストはケースにより数千円から1万円超になることもあります。
(例:三菱UFJ銀行の外国送金手数料・取扱手数料・追加手数料の説明)
https://www.bk.mufg.jp/tsukau/kaigai/soukin/index.html
また、着金までに2~5営業日程度を要することが一般的で、送金内容や金額、銀行側の照会によりさらに日数がかかる場合もあります。
このように国際銀行送金は、低リスクではあるものの、コストが高く、時間もかかる入出金方法と位置づけることができます。
代替手段③クレジットカード
特徴
・入金が即時反映
・初心者でも使いやすい
・少額取引との相性が良い
問題点・リスク
・出金にはほぼ使えない(返金扱いのみで利益は引き出せない)
・チャージバック問題で業者側が嫌う
・日本のカード会社が海外FX決済をブロックしやすい
【総評&今後の見通し】
クレジットカードによる海外FXの入金は、即時反映される手軽さから、これまで多くの利用者に使われてきました。
しかし今後については、主要な入出金手段として利用され続ける可能性は低い と考えられます。
その理由として、クレジットカードは原則として「入金のみ対応」「出金は返金扱いに限定される」 ケースがほとんどであり、利益分の出金には別の手段を併用せざるを得ない点が挙げられます。
また、チャージバック(支払取消)リスクを嫌うカード会社や決済代行会社が、海外FXや関連取引への対応を徐々に制限する動きも見られます。日本のカード会社側で決済自体が通らなくなるケースも増えており、利用の安定性という点では不安が残ります。
さらに、資金決済法改正やマネーロンダリング対策の強化といった規制環境の変化を踏まえると、クレジットカードは今後、少額の初回入金など補助的な手段としては残る可能性があるものの、海外FXのメインの入出金手段として利用され続ける可能性は高くありません。
このように、クレジットカード入金は「手軽だが持続性に乏しい入出金方法」と位置付けるのが現実的でしょう。
代替手段④暗号通貨(bitcoinなど)
特徴
・銀行を通さず送金可能
・規制の影響を受けにくい
・海外FX側の対応は比較的多い
問題点・リスク
・価格変動が大きい
・入金額・出金額がブレる
・税務計算が複雑
・送金ミスのリスク
【総評&今後の見通し】
Bitcoinや ETH などの暗号通貨は、国内銀行や電子決済サービスを介さずに送金できるため、資金決済法や銀行側の自主規制の影響を受けにくい入出金手段と言えます。
また、送金スピードが数分~数十分程度と非常に速く、ネットワーク状況によっては手数料も比較的安く抑えられる点は大きなメリットです。
一方で、最大のデメリットは価格変動の大きさです。入出金や他通貨への換算の過程で価格が変動しやすく、入出金手段であるにもかかわらず損益が発生し得る 点については、そもそも適切な方法なのか疑問視する声もあります。
さらに、暗号通貨を利用する場合には、換算ごとに発生する課税計算、ネットワーク混雑による遅延、アドレス入力ミスなどによる着金リスクといった実務上のデメリットも無視できません。
このため、USDT や USDC といったステーブルコインが利用できる環境であれば、あえて価格変動のある暗号通貨を入出金手段として選ぶ必要性は低い と考えられます。
暗号通貨による入出金は今後も完全になくなることはないと思われますが、トレードとの相性はあまり良くなく、海外FXの主要な入出金手段として広く使われる可能性は高くないでしょう。
代替手段⑤ステーブルコイン(USDT・USDC)
特徴
・価格がUSDと連動し安定
・送金が速く、手数料が安い
・銀行・カードを介さない
・海外FX業者の対応が急増
問題点・リスク
・ウォレット管理は自己責任
・日本円化には取引所を介す必要
・USDTは発行体リスク、USDCは規制耐性が高いが対応業者がやや少なめ
【総評&今後の見通し】
USDT や USDC といったステーブルコインは暗号通貨の一種ですが、ビットコインなどの他の暗号通貨と異なり、1USDT ≒ 1USD、1USDC ≒ 1USD と価格が米ドルにほぼ連動しています。
そのため、送金中に価値が大きく変動するリスクがなく、入出金に伴う損益の発生や税務計算が複雑化しにくい点が、他の暗号通貨にはない大きなメリットと言えます。
また、使用するネットワークにもよりますが、送金時間は数分~数十分程度と非常に速く、手数料も数円~数百円程度と、他の暗号通貨はもちろん、法定通貨による国際送金と比べても低コストである傾向があります。
このように、ステーブルコインは海外FXとの相性が非常に良く、近年では USDT や USDC を入出金手段として採用する海外FX業者も増加しています。
一方でデメリットとして、現時点では日本の取引所で直接取り扱われているステーブルコインが限られており、USDC は SBI VCトレードで購入できるものの、USDT については日本の取引所で直接購入できないのが実情です。
そのため、SBI VCトレードに口座がない場合には、「銀行 → 日本の暗号資産取引所でビットコイン等を購入 →海外取引所へ送金 → USDT に換算 → 海外FXへ送金」といった、複雑な手順が必要になるケースもあります。
この過程では、暗号資産の売買や換算が発生するため、税務上の計算や管理が煩雑になる点も注意が必要です。
更に言うと、海外FXからウォレットへの送金自体は銀行を介さずに行われますが、日本円として銀行口座に戻す段階では、取引所および銀行側の審査が入る可能性がある点には注意が必要です。
とはいえ、今後は日本国内でもステーブルコインの取り扱いが徐々に拡大していくと見られており、価格変動リスクの低さ、手数料の安さ、送金スピードといった点を踏まえると、ステーブルコインは海外FXの入出金においてメインの手段になっていく可能性が高い と考えられます。
「JPYC」は有望な代替手段になり得るか?
このように、無登録の収納代行業者を介した入出金の代替手段を見ていくと、それぞれに一定の長所はあるものの、規制強化による将来的なサービス存続リスクや、手数料の高さ、税務計算や価格変動リスク、入出金手続きの煩雑さといった課題も多いことが分かります。
そうした中で、これらの問題点を一挙に解決する可能性があるとして注目されているのが、日本円に連動したトークンとして発行されている JPYC です。
JPYC の主な特徴を整理すると、次の通りです。
・発行・運営主体である JPYC 株式会社は、第二種資金移動業者として登録済
・1JPYC ≒ 1円となるよう設計された円連動型トークン
・ブロックチェーン上での送金により、低コストかつ高速な移転が可能
参考:株式会社JPYC公式
https://corporate.jpyc.co.jp/news/posts/first-yen-stablecoin-jpyc
参考:DIAMOND CRYPTO
https://diamond.jp/crypto/market/jpyc/
なお、JPYC株式会社は金融庁の「資金移動業者登録一覧(令和7年11月30日現在)」にも掲載されています(第二種・関東財務局長 第00099号)。
https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/shikin_idou.pdf
JPYC は、法令に基づいた形で発行・運営されている点で、日本円建てトークンとしては 法制度面の安定性が高い存在 と言えます。
一方で、現時点では海外FX業者がJPYC による入出金へ対応している例はなく、実務上、海外FXの入出金手段として利用できる段階にはありません。
それでも JPYC が将来的に有望視される理由としては、
・円建てであるため為替変動リスクが極めて小さい
・日本の資金決済法の枠組みに沿った形で発行・管理されている
・暗号資産の利便性と、日本円の安定性を両立できる可能性がある
といった点が挙げられます。
もっとも、現状では国内外の取引所での流通も限定的であり、海外FX業者側の対応も進んでいないため、JPYC が直ちに海外FXの主要な入出金手段になるとは言えません。
今後、JPYC の流通拡大や、国内外の取引所、さらには海外FX業者での採用が進めば、海外FXの入出金手段として有力な選択肢となる可能性はありますが、現段階では「将来の有望な選択肢」として位置付けるのが妥当でしょう。
海外FX入出金の代替手段まとめ
ここまで、海外FXの入出金手段について、
・国内銀行振込(無登録収納代行)
・電子決済サービス
・国際銀行送金
・クレジットカード
・暗号通貨(ビットコイン等)
・ステーブルコイン(USDT・USDC)
・ JPYC(※将来的な選択肢として)
と、個別に見てきました。
それぞれにメリットはあるものの、「今後も継続して使えるか」という視点で見ると、評価は大きく分かれます。
そこで一度、規制耐性・実務の使いやすさ・コスト・継続性といった観点から、入出金手段を整理してみます。
海外FX入出金手段の比較表(2025〜2026年視点)
| 入出金手段 | 速度 | 手数料 | 規制耐性 | 出金 |
今後の 継続性 |
| 国内銀行振込(収納代行) | 普通 | 安い | × | ○ | × |
| 電子決済サービス | 速い | 安い | △ | ○ | △ |
| 国際銀行送金 | 遅い | 高い | ◎ | ○ | ○ |
| クレジットカード | 非常に速い | 安い | △ | × | △ |
| 暗号通貨(BTC等) | 速い | 変動 | ○ | ○ | △ |
| ステーブルコイン (USDT・USDC) |
速い | 非常に安い | ◎ | ◎ | ◎ |
| JPYC(※参考・将来枠) | 速い | 非常に安い | ◎ | ー | ー |
※ 規制耐性=今後の法制度変更に耐えられるか
※ 継続性=実務的に「使い続けられる可能性」
※ JPYCは現時点で海外FX側の採用例が乏しいため「将来枠」として整理
まず、無登録の収納代行業者を介する国内銀行振込は、規制面および銀行側の自主規制の両面から見て、今後最もリスクが高い入出金手段と言えるでしょう。
また、国際銀行送金は法制度上は非常に安定していますが、高い手数料や着金までの時間、銀行側の確認・照会といった実務上の負担が大きく、誰にとっても使いやすい方法とは言えません。
一方で、ステーブルコイン(USDT・USDC)は、価格変動リスクが小さく、送金スピードが速いことに加え、手数料も安く、銀行を介さない点から、規制耐性と実務の使いやすさのバランスが最も取れた手段と考えられます。
ただし現状では、日本国内の限られた取引所でのみUSDCが購入できる状況にあり、該当取引所に口座がない場合には、海外取引所を経由するなど、やや煩雑な入出金手続きが必要になる点には注意が必要です。
このように、現時点では「完全にノーリスク」「誰にとっても簡単」「規制の影響を一切受けない」といった万能な入出金手段は存在しません。
しかし、
・国内銀行振込に過度に依存しない
・複数の入出金ルートを理解しておく
・将来の変化に応じて切り替えられる余地を残す
といった視点を持つことで、海外FXを取り巻く環境変化への耐性を高めることは十分可能です。
重要なのは、「今使えているか」ではなく「今後も使い続けられるか」という視点で入出金方法を見直すことではないでしょうか。
結論:入出金手段の制限だけでは海外FXは「オワコン」ではない
以上見てきたように、国内銀行振込と海外FXを結ぶ従来型の入出金ルートには、今後何らかの制限がかかる可能性が高まってきています。
その意味で、海外FXが一定の影響を受けることは避けられないと言えるでしょう。
少なくとも、
・無登録の収納代行を前提とした国内振込ルート
・電子決済サービスへの過度な依存
・銀行審査を軽視した出金設計
といった旧来のやり方のままでは、今後立ち行かなくなる可能性が高いという点は事実です。
しかし現時点では、海外FXが直ちに使えなくなる、あるいは完全に終わるといった状況ではありません。
なぜなら、本記事で見てきた通り、入出金の代替手段は複数存在しているからです。
今後の海外FX業者の選択・利用においては、「どの業者を使うか」以上に、「どの入出金ルートを選ぶか」が重要な判断軸になっていくでしょう。
次回の連載第3回目の記事では、入出金規制とは別の論点となる、金融商品取引法に関連した海外FX業者そのものへの規制の行方について、さらに踏み込んで整理していく予定です。